更新日:2022年10月1日
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皆さんは、この世に生まれて「人生」という名の列車に乗り込みました。その列車がゆっくりと進み、その旅が終わる前に、あなたはそこまでの道のりを、どんな風に過ごしたいですか。「人生」という名の列車が、終着駅に着いたとき、その駅はあなたの家族や親しい人たちにとっての「起点」にもなります。
”あなたらしい生き抜き方”を、あなた自身、いま少し足をとめて考えてみませんか。すこしだけでいい、あなたの大切な人と話してみませんか。
平成29年10月1日時点で伊豆の国市の高齢化率は31.7%で、年々1%ずつ増加しています。全国的に見ても高齢化が急速に進んでおり、これは、今後さらに亡くなる人が増えていくことを意味しています。
1979年に6.0だった死亡率が、2035年には14.8となり、2039年には死亡数がピークを迎え、167万人が死亡すると予測されています。
昭和51年以降、日本人が最期を迎える場所は、「病院」が代表的となりました。現在、日本人の7割以上が病院で最期を迎えており、伊豆の国市でも約75%の人が病院で亡くなっています。しかし、亡くなる人が増加していく将来、病院のベッド数が限られてくる恐れもあります。
一方で、高齢者の健康に関する意識調査では、半数以上の人が「自宅」で最期を迎えたいと希望しています。また市の調査でも、家族に介護が必要になったときに介護したい場所は、「自宅」が6割を占めます。
医療や介護が必要となる本人も、それが必要になったときに看る家族も、多くの人が「最期を迎えるときには自宅で過ごしたい」と望んでいるといえます。しかし、実際は「病院」が多くなっている状況です。「希望」と「現実」には大きな違いが出ているようです。
また別の調査では、半数以上の人が「終着駅までの道のり」を家族とまったく話したことがない、と回答しています。
今後、療養の場は病院だけでなく、さまざまな場所、あなたらしく過ごせる場所の選択肢が増えていきます。そのときに、一番大切になるのは、「あなたがどうしたいか」「どう過ごしていきたいか」。
もし、あなたに医療や介護が必要となったとしても、”あなたらしさ”はそのままです。その”あなたらしさ”を保ち続ける方法は人それぞれ。どんな場面でも、あなたらしさを大切にしていくための方法を、自分自身で考えて、家族と話してみてください。そして、その方法のひとつに自宅で療養する「在宅医療」があることを知ってください。
「在宅医療」では、自宅などの生活の場に、医師や看護師などが定期的に訪問し、診察や治療・処置などを行います。医療だけでなく、さまざまな介護サービスと併せて利用することで、住み慣れた家で安心した生活を送ることができます。
医療福祉相談室、地域医療連携室のソーシャルワーカーや看護師が、病院受診、医療費、介護や福祉サービスの相談など、入院中から退院後の生活を安心して過ごせるよう調整を行います。
家族が退院するのにあたり、不安なことを聞いてくれたり、必要な福祉サービスにつなげてくれます。
家族の体調なども考えながら、サービスの調整をしてくれます。身体の変化に合わせてさまざまな提案をしてくれたり、一緒に考えてくれる心強い存在!
訪問看護師さんが定期的に来てくれて安心です。痛みの相談に乗ってくれたり、一緒に車椅子で出かけてくれたり、自分だけではなく、家族の心の支えにもなってくれます。
お通じの調整や、ごはんの摂り方、身体のすべてのことを気にかけてくれます。お口の症状が心配なときは、歯医者さんへもお話ししてくれて、訪問診療につなげてくれます。体調の変化を細やかに察知してくれる心強い存在です。
虫歯治療のほか、口腔ケアの方法を教わったり、食べ物の工夫を教えてもらったりします。
理学療法士の先生に車椅子とクッションの調整をしてもらっています。身体の機能をよく理解しているリハビリの先生だからこそ!日々の体調の変化を確認しながら、一緒にリハビリをしてくれます。先生たちの笑顔や笑い声に包まれて、やる気が湧いてきます。
電動ベッドを定期的に点検してくれたり、身体の状態に合わせてマットレスを交換してくれます。関係者みんなが操作できるよう、丁寧に説明してくれます。
市では、住み慣れたこの地域・その自宅で、いつまでも安心して暮らし続けられるよう、医療と介護が連携し、地域全体が「大きな病院」となれるようなまちづくりを進めています(在宅医療及び介護連携推進事業)。
それは、医療・介護・行政や専門職の力だけでは成り立ちません。これまでの日々と変わりない近所の人の気遣いや、変わらず接する友人の優しさなども、本人や家族を支える大きな力になります。
みなさまの周りに多くの専門職が大きな輪となって囲んでいますが、その中には近所の方や、今あなたのそばにいる友人たち、地域を見守ってくれている民生委員さんたちなど。地域の方々も、あなたのことを支えてくれる”大切な一員”であることに、気づいていただきたいと思います。
普段から何でも気軽に相談できるかかりつけ医を持ち、通院が大変になったときには、在宅医療の開始についてかかりつけ医に相談してみましょう。
鈴木孝子さん、青崎美代子さんは平成29年8月、鈴木きよ子さん(孝子さんの義母、青崎さんの母)を在宅で看取りました。同居していた孝子さん、市内に住む青崎さんら家族全員で看取り介護を行いました。
きよ子さん白寿のお祝い
(きよ子さんは前列右端、孝子さんは後列右から2人目、青﨑さんは後列右端)
母は施設に入所しているときから「家に帰る。家に帰りたい」と話していました。その”声”が耳の奥にずっと残っており、家に一緒に帰ることを決めました。
母が自宅に帰ってからは毎週、医師・看護師・家族で話し合いの場を持ち、これからのことをはっきりと説明してもらえました。ありがたかったのは、担当医の先生がいつも背中を押してくれたこと。何も知らない私には、それが何より心強かったです。また、日々の体調の変化に気を落とさず、プラスに考えるようにし、朝を迎えるたびに「お母さん、今日も元気だ」と笑顔でいるよう努めました。
”看取り”はこれまでの介護とは全く違うものでした。良くなっていくのでなく、死を見届けるためのもの。一人では到底できません。病院ではすぐできる処置も、自宅ではそうもいきません。また、いつ終わるかもわからない。だからこそ、家族全員で看るのが、”看取り”です。私たち家族は、前々から「こうなったらこうしたい。そのままでいたい」と話をしていました。
母が自分の部屋で息を引き取ったとき、とても静かに穏やかに、いい気持ちでそのときを迎えたように見えました。その姿は”幸せを感じながら旅立つ”ようで、その表情を見たとき、「この部屋に帰ってきてよかった。家に連れてきてよかった」と心から思えました。
もしこれが病院であれば、機械の音や急ぐ足音の中であったかもしれません。しかし、母は自宅での毎日の中で、「家族の声の記憶」の中で過ごすことができました。それは、私たち家族にとって当たり前の毎日で、何も特別なことではありません。日々の生活を自然に過ごしていただけのように、今は感じています。
いつか私たちの番になったときにも、こんな風に過ごしたい。それを母が教えてくれたようにも感じました。
家族で相談し、自宅で最期まで過ごすことを決めてからは「口から食べられなくなったらどうする」「点滴が入れられなくなったらどうする」と、母の状態が変化するごとに判断を迫られました。そのたびに家族で集まり話し合いました。
今でも一番印象に残っているのは、母が病室から自分の部屋に帰ってきたとき、すごく良い顔をしながら部屋を一周見渡し、とても満足した表情を見せてくれたこと。そのときの表情が今でも忘れられません。「家に帰ってきてよかった」と強く感じた瞬間でした。
医師や看護師・ヘルパー・ケアマネジャーたちが上手に連携をとり、私たち家族を支えてくれました。病院で「点」での関わりでも、自宅では「面」での関わりができたように感じています。
自宅での看取りは決して簡単ではありません。でも、源にあるのは「自宅で過ごしたい」という本人の”望み”。その人にとっての幸せを家族が考えられ、意思の疎通が図れること。それは、家族としても幸せなことです。本人を囲める満足感・充実感。母を看取るまでの日々は、家族としてもとても”濃い”時間でした。
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